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  2006年度 ワークショップ講演録



■第12回ワークショップ(2006年7月7日)

講師:ハイアール・ジャパン・ホールディングス 海外新製品開発推進部経理 時 振玉氏

テーマ : ハイアール成長の鍵 ― イノベーション
時氏による講演資料はコチラ [PDF 970KB]
T)講師紹介
時 振玉(30歳)

00年8月ハルピン理工大学卒業、同年、ハイアール入社
01年からハイアール中央研究院戦略情報部の情報担当
02〜04年3月ハイアール中央研究院資源統合チーム チーム部長
04〜06年ハイアール・ジャパン・ホールディングス海外新製品開発推進部経理

U)講義内容
1.ハイアールの現状
ハイアールは1984年にスタートした若い企業である。その前身は青島市にあるモーター会社で、年間154万元の赤字経営だった。
1985年、現会長である張瑞民会長が始めての海外視察で西ドイツの有名冷蔵庫メーカーLiebherr社に対し、同社との合弁を提案した。しかし、この提案は受け入れられず、製造設備と重要部品、関連製造技術だけが提供される(技術協力ライセンス)ことになった。
以来張瑞民会長のもとで瞬く間に世界的家電企業に成長した。売上高は154万元の赤字から2005年には1000億元に達し、現在の従業員は約3万人である。輸出先は欧米先進諸国を中心に160を超える国・地域に及ぶ。海外生産拠点も12カ国にあり、中国の数少ない多国籍企業の一つである。
ハイアールは、先発(欧米・日本・韓国)の家電企業の成長を時間的に圧縮して成長した。欧米企業は100年、日本企業は50年、韓国企業は25年かけて世界企業に成長したところを、ハイアールは15年ほどで世界的企業に成長した。
2.ハイアールが急成長した原因:
その1:絶えずイノベーションをする企業文化を作り上げること。
全社員が常に自己を否定し、以前の考え方を否定する。つまり、過去の成功は今日の成功の元ではなく、すでに成功した考え方は新たな成功の壁になるという認識を持たせることである。

その2:ユーザーのニーズに応える。
ハイアールはこの21年の間、まずは海外からの技術導入を図り、次いで国産化率を高めて製品輸出を拡大し、海外生産に乗り出してきたが、それはユーザーのニーズに応えるためだ。これまで導入技術の咀嚼(そしゃく)とイノベーションのために莫大な資金を投下してきたのも、すべてそのためであった。

その3:すべての従業員を一つのSBU(Strategic Bisiness Unit=戦略的事業単位)すること。
SBU:[S]は戦略、「B」はビジネス、「U」はユニットである。つまり、信賞必罰主義である。その基本は、経営者や人事部の幹部が有能な人物を発掘してそれを育てることができるという考え方には懐疑的で、それには限界があるという認識のもとに、社員に競争をさせて、その成績に基づいて処遇を決めているのである。具体的には、それぞれが立候補して自分の目標を達成することを競うことにより、結果として会社全体の業績が上がるというシステムを確立しており、自分の掲げた目標を達成できない場合は自ら身を引くことになる。

その4:労働者の徹底した成果主義による管理
ハイアールの急成長のもっとも大きな理由は、その徹底した成果主義管理にある。
ハイアールを構成する会社のひとつに洗濯機を生産する順徳ハイアールがある。ここは「市場連鎖賃金」を実施している。市場連鎖賃金は、出来高給と問題給に分かれる。出来高給とは作業者が自分の担当する工程の作業をひとつ遂行するごとに1元の報酬を得る。問題給は賞金と罰金からなり、不合格品を次工程に流したら1個につき1.5元の罰金が科される。この前工程の不良を見つけたら1個につき5元の賞金、前工程の不良を見逃したら1個につき1.5元の罰金が科される。この前工程の不良作業を見逃した場合に科される罰金は、他の企業にはなく、ハイアール独自の制度だろう。さらに、作業で使う部品・材料に傷を付けたり紛失したら罰金を払う。こうして出来高給は生産性の向上につながり、他方、賞金と罰金は不良作業を減らすよう動機付けている。
作業者は毎日、自分の仕事をまとめて生産ラインの班長に報告する。班長は作業者の3Eカードに記入する(3E:everyone, everyday, everything)。作業者の毎月の給料は日給月給で、日給は(出来高給+賞金−罰金)で決まり、固定給はゼロである。
3.ハイアールの発展プロセス
(1) 第一段階:ブランド確立戦略段階(1984年〜91年)
「ハンマー事件」
ハイアール創業期に張会長が自ら76台の冷蔵庫不良品を見つけハンマーで叩き壊したという中国で有名な「ハンマー事件」である。当時、一台の冷蔵庫は従業員の給料の2年分に当たる高価なものだったが、張会長は従業員に自分たちの造った76台の不良品冷蔵庫をハンマーで壊させた。たたき壊されたのは冷蔵庫ではなく、従業員の旧い品質意識だった。「ハンマー事件」をきっかけに確立された品質理念は、現在の同社の「品質は製品の命、信用は企業の魂」という経営の根幹となっている。この段階においてハイアールは、一つの製品を完璧に造れなければ他の製品も完璧には造れないとの考え方に立ち、冷蔵庫造りに専念して、ブランドを確立した。

「OEC管理法」
OEC管理法はOverall every control and clearの略である。この管理方式は、個性を生かして常に創出しようとする米国型と集団主義精神と忍耐努力の意志を重んじる日本型の企業管理理念を、そのまま受け入れて独創した管理理念である。これが実は、ハイアールの目指す近代的企業管理方式を支えている、独自の哲学を表したものである。また、企業が成長するためには二つの力、一つは停止力(基礎管理)、もう一つは上昇力(イノベーション)が必要だという、斜面球体論を提出した。
(2) 第二段階:多角化発展戦略段階(1991年〜98年)
「休克魚(ショック死した魚)」を食べる:M&A(買収管理)
経営環境がよく、ハード面の優位性を持ちながら、経営管理と市場戦略の意識が薄いために経営継続が難しい企業を次々買収し、その企業を傘下におさめて復活させることにより、多角化を推進した。ハイアールはハイアール式管理モデルを「ショック死した」企業に注入し、再生期間の短縮、収益回復率のアップ、経営を活性化させ、全体業績のアップを目指したのだ。この戦略でハイアールは赤字総額5億5千万元だった18社をほぼ1年以内で黒字に転換させた。同時にハイアール自身の多角化を実現した。
この段階ではアフター・サービスを重視した。当時の中国は物不足の時代で、売り手の態度は悪く、お客様は神様という意識は全くなかった。製品が壊れても、修理してくれない時代だった。その時代にハイアールは24時間アフター・サービスを実施した。
(3) 第三段階:国際化発展戦略(1998年〜現在)
「走出去」(現地へ出て行く),「走進去」(現地市場に入り込む)、「走上去」(現地市場をリードする)
1980年初めに中国政府から沿岸部の経済特区を中心に、外資を誘致する政策が実施された。当時の対外経済政策を象徴する言葉として、「請近来(外資に進出してもらう)」が流行していた。1992年ケ小平南方視察後に製造業は製品の対外輸出が本格化し、輸出額、輸出量がともに高い伸び率を続けてきた。その時期に流行した言葉が「走出去(世界へ出て行く)」だった。ハイアールの国際化発展戦略は1998年から始まった。
国際市場への進出は「走出去」、「走進去」、「走上去」の三つのステップに分けられる。「走出去」は国境を越え、製品を世界の市場に出すことで、ハイアールは学生向けのパソコン用机付き小型冷蔵庫という省スペース型のニッチ製品で、アメリカ市場に参入した。「走進去」は現地で主要なチャネルに入って、需要を創造し、主要な製品を販売することで、ハイアールは出し入れの簡単なワイン・セラーを開発し、販売した。「走上去」は、ユーザー・ニーズを重視し、深掘りすることにより、現地市場のブランドになる段階である。ハイアールは冷凍庫の底の方の物を取り出しにくいという主婦の年来の悩みを解決する「マイク式冷凍庫」をわずか17時間で開発することにより、現地でのブランドを確立した。
この三つのステップは「種蒔き」、「定着」、「結実」の段階と捉えることもできる。「種蒔き」は最も市場参入の難しいアメリカ市場から着手し、そこで成功できれば、アメリカより簡単な市場では必ず成功できる。「先難後易」の考え方が重要だ。「定着」の段階では設計、製造、販売の全てを現地で行う「三位一体」体制の確立が必要だ。「結実」の段階では、「資本の融合」、「智恵の融合」、「文化の融合」により現地ブランドを創造する「三融一創」が達成されねばならない。
4.ハイアールの行うイノベーションの目的は、顧客に価値をスピーディーに提供すること
中国の田舎の農民は洗濯機でサツマイモを洗っていた。そのため故障が頻発した。泥や根が排水ホースに詰まり、水が流れなくなってしまうからだった。このクレームが本社に届いてから24時間で、技術陣はサツマイモが洗える洗濯機を開発した。ホースを太くし、ふたを大きくしたのだ。この洗濯機は中国の田舎でヒット商品となった。
アメリカ市場に参入する際、学生寮用の小型冷蔵庫というニッチ製品で参入を図った。学生寮という狭いスペースを考えれば、単に冷蔵庫が小型であるというだけでなく、それにパソコン用テーブルがくっついていることにより、更なる省スペースという価値を付加することができた。商品の使用環境を考慮し、顧客に価値を提供する考え方を徹底した結果だ。
5.ハイアールの従業員は誰でも経営者になれる
ハイアールの組織は極めてフラットである。従業員の誰もが、「型番経理」と呼ばれる戦略事業単位(Strategic Business Unit SBU)の長になれる。型番経理の給料は生活費が600元程度で、極めて少ない。儲からない場合は、その他の給料はもらえない。型番経理は会社の事業の一部を請け負い、請け負った事業に必要な投資を行い、製品を市場に販売し、2年以内でどれだけ儲かったかで給料が決まる。利潤額の0.2〜0.3%を給料とする。最低保証額が月600元で、最高限度額は8,000元である。もっと儲かったら、給料以外に車や住居を提供する。徹底した成果主義である。
ハイアールでは従業員にチャンスを与えるが、成果をあげられなければ厳しい評価が待っている。従業員は成果により甲、乙、丙に評価され、看板で表示される。毎月評価を繰り返し、下から10%が何ヶ月か続くと解雇する。副社長から降格された例もある。
こうした制度は、従業員の一人ひとりに能力を磨かせ、能力をアップさせるためのものである。従業員一人ひとりが自分自身の貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー表を持っている。
ハイアールは「Tモデル」(Target,Team,Time,Today)を提唱している。SBUでは個人主義を重視したが、Tモデルでは目標を定め、チームを組織し、目標達成時期を設定してプロジェクトを立ち上げ、そのために今日何をやらねばならないかを明確にせねばならないことを強調している。6月に新製品を販売するには5月に量産せねばならず、そのためには4月に試作せねばならない。このスケジュールを達成するためには、今日はどこまでやらねばならないかを逆算する。スケジュールを守るためには今日やるべきことは、必ず今日中にやる。できなければ残業する。残業しても、それはサービス残業だ。
MMC(Mini Mini Company)という制度もある。資材購入部門は、鋼材等の値上がりリスク等を避けるために、社内の事業部からのオーダーがなくても、自らの判断で多目の鋼材を仕入れ、社外に販売することも許されている。
6.買収、拡張、海外進出に必要なのは資金の投入ではなく、文化と観念の投入である
「黄山電子」は46年の歴史をもつ国有企業だったが、国家が数次にわたる委託経営や破産措置により再生を図ったが、結局経営は好転しなかった。従業員の観念が変化しなかったからである。1998年にハイアールが同社を買収して「合肥ハイアール電子」とし、ハイアールの文化と観念を注入した。最初はハイアール文化と黄山文化の衝突によりストライキが発生したが、生産を停止し、職場討論を繰り返した結果、従業員がハイアール文化を受け入れ、2002年には同地の生産額第一位の企業となった。本件はハーバード大学ビジネス・スクールのケース・スタディに取り上げられた。
海外に進出する場合は、ハイアールの文化を注入するだけでなく、現地の文化との融合を図ることも重要だ。アメリカでは、中国のやり方をそのまま持ち込むことができない場合もある。従業員一人ひとりの評価を「笑い顔」や「泣き顔」のマークで看板に貼り付けて表示するやり方は、中国では従業員を発奮させることができても、個人的評価の公表を受け入れがたく感じるアメリカでは実行が難しい。そこで、優秀な従業員のところには熊の縫いぐるみを置き、劣った従業員のところには豚の縫いぐるみを置くことにした。
以上のような考え方に基づき、ハイアールは2006年から技術革新の第4段階として、国際ブランド発展戦略を展開し始める。

V)質問内容
Q1 SBU戦略事業単位の性格もよく分かりますが、徹底した成果賃金主義=成果に基づいて報酬をもらうというのは日本でもあまり定着していないと考えています。ところが社会主義である中国で、そのような徹底した成果主義が実施されていることに対して非常に驚きを覚えました。そこでお聞きしたいのは、(1)中国の労働組合はこのような徹底した成果主義の実施に対し、どのように対応しているのでしょうか。(2)資料から見ると80年代の創業期に比べると約2万倍の売り上げを上げています。その原因は、海外進出による売り上げ増もありますが、中国国内の内需拡大も含まれていると思います。ハイアールは内需拡大のために、何をやらねばならないと考えていますか。中国の内需は、住宅問題、流通問題など中国の小康社会の実現に向けて、白物家電の需要拡大も大事になってくると思いますが、これからのハイアールはどのような戦略を考えているでしょうか。
A1 ハイアールは社員に対して厳しいが、しかし、これは法律違反ではありません。もちろん、ハイアールは大企業ですので、従業員に対する厳しさこそ、ほかの企業より多くの利益を得ることができる鍵だと考えています。成果主義とは言っても、従業員に対する福祉、待遇等は他の企業に比べ、よくしているつもりです。例えば、平均給料はほかの会社の水準に比べ、二倍程度になります。人によって違いますけれども、現地の平均に比べて7,8倍になる人もいます。
二つ目の問題は、ハイアールがいまでも抱えている問題だと思います。冷蔵庫からスタートしていろんな会社を買収して売り上げを伸ばしてきました。これからはいろんな会社も買収できなくなるし、白物家電も中国だけではなく、ヨーロッパ、アメリカ、日本でも販売しているので、海外の市場で国内のようにシェアを取るのは非常に難しくなるので、新しい分野を考えなくてはならなくなりました。ハイアールももともとは白物家電を中心に生産、販売してきましたけれどもこれからは黒物家電つまり情報家電に進出しているところです。そして、黒物家電の完成品だけではなく、自分だけのオリジナル商品を作るための部品−マイコンつまりソフトウェア、半導体設計等も計画しています。北京、上海ではICデザイン会社を設立しており、ハイアールのソフトも含めてハードウェアでオリジナル商品を開発することを戦略的に考えています。
家電製品以外に、今中国で不動産がブームとなっています。内装してないままの建物をハイアールがホームインテグレーション、つまり内装してハイアールの家電もそのままセットで売るという事業を始めており、非常に成績が良く、業績を伸ばしています。
Q2 ハイアールの昨年の売り上げは約1,100億元とのお話がありましたが、経常利益はどれぐらいですか。また、ハイアールの日本進出について、三洋と業務提携をやっているって言われていますが、具体的にはどのようなことをやっているのでしょうか。
A2 私は経営者ではないので、経常利益については詳しくは知りませんが、中国の公開情報に基づけば、平均的家電メーカーの売上高利益率は4%程度だそうです。ちなみに世界の白物家電で、利益率が一番高いのは韓国のLGで、9.8%ぐらいになります。黒物家電は儲かるのですが、白物家電はあまり儲かりません。
2002年から三洋と提携し、合弁会社を作りました。三洋だけではなく日本で最初に提携したのは三菱重工で、今年で11年目になります。それから日立、松下とも組みましたが、一番深いパートナーとしては三洋です。共同開発した製品には5kgの完全乾燥機付ドラム式洗濯機があります。日本人が企画し、中国人が開発し、共同で製造した製品です。
Q3 ハイアールは今年からインドの市場に本格的に進出すると聞きました。インドの携帯市場が25億ドルでその半分以上は諾基亜がシェアを示しているって言われています。ハイアールは5億ドルぐらいのシェアを今後占めようと言う話ですが、インドの携帯市場への参入もハイアールの国際ブランド戦略の一つでしょうか。
A3 そうです。先ほど説明したようにハイアールはヨーロッパ、アメリカ、日本といった先進国に進出し、力を磨いてきました。でも、先進国では競争も厳しいし、コストも高いので利益はあまり出ません。以前は国内の市場で利益を出しましたが、最近は国内の利益も減ってきましたし、このままでは、世界ブランドを作るための海外発展ができなくなります。発展途上国への進出は競争があまり厳しくないので、利益を上げることができます。ですから今年は、携帯電話だけではなく、冷蔵庫も本格的にインドに進出するのを決めました。具体的に言えば、韓国の大宇のインドにある冷蔵庫工場を買収することにしました。これは、まず先進国でブランドを作り、その位置を固め、その後、発展途上国では利益を伸ばすのに力を入れようという方針です。
Q4 日本の労働組合は労働者の給料から組合費を集めて専従者の給料をまかなっているが、中国の労働組合専従者の給料は企業が負担しているとのお話をうかがいました。ハイアールはブランド戦略でまず参入しにくいアメリカで工場を作りましたが、アメリカの労働組合は中国のハイアールの労働組合とは違うわけです。ハイアールのやり方は、アメリカで受け入れられていますか。
A4 ハイアールは山東省の青島にあります。個人的な考えですが、ハイアールは山東省でしか発展できないのではないかと思います。なぜならば、山東省は孔子の故郷で礼儀正しいし、まじめで、上司の命令どおりやるのが人々の性格になっています。ハイアールの文化を移植しようとしても、安微省の黄山で起きたことのように山東省の文化を国内の別のところに移しても、合わないのです。ハイアールの厳しい管理文化は、アメリカや日本などでも通用しないのが当然です。ハイアールやり方は、現地の資本との融合、現地の智恵(人材)や文化との融合を重視しています。ですから、先ほど申し上げた様に、中国国内みたいに名前とかを張り出したりするのではなく、熊のぬいぐるみや豚の置物などを使い、やわらかくして、現地の人に受け入れやすい方法でやるわけです。現地の文化、法律によってハイアールなり、アメリカ・ハイアールなり現地のブランドを作らなければならないので、当然、現地の文化に融合するよう力を入れています。
Q5 SBU(戦略事業単位)ですが、どのグラスまでの人が型番経理になることが可能ですか。
A5 最初はその点をあまり明確にしておらず、全員をSBUとしたため大きな問題が起こりました。企業内では利益率が高い部門と低い部門がありました。サポート部門も、利益を出さないと給料がもらえない管理方法でした。しかし、この管理方法ですとサポート部門、つまり利益と直接関係ない部門と利益率の高い部門と差が生じたのです。それで今は直接利益に関わる人だけ型番経理になり得ますが、サポート部門ではサポートした部門から利益をもらえるということにしています。ですから、一つの工程でみんながSBUになりますが、その評価の基準が違うということです。つまり、利益のフィードバックのパーセンテイジを調整して、バランスの取れたSBUを実現していくわけです。
Q6 ハイアールの場合、冷蔵庫を造るまでの流れをお聞きしたい。また、ユーザーから注文を受けて納品するまでに、どれぐらい日程が必要になりますか。
A6 需要分析から始め、試作品を造り、完成品を造って、受注生産というプロセスをたどります。注文を受けてから納品まで、開発済みの完成品の場合は部品調達まで入れて30〜45日かかります。普通の会社は45日〜2ヵ月ぐらいですから、ほかのメーカーに比べれば結構早いほうだと思います。講義で情報化システムについて話しましたが、各国、各地の在庫をリアルタイムで見られるようにしてあります。ユーザーが直接ハイアールに注文するのではなく、会社で毎月販売注文計画を立てます。つまり、前年度などの数字を参考にして、地域ごとに最低在庫を保つように、最低在庫を割り込めば自動的に発注されるシステムにしてあります。本社側には生産センターと流通側の情報が常に見られるようになっていて、情報交換をしています。目標は在庫ゼロですが、なかなか難しいです。地域の最低在庫をいくらにするかは、経験に基づいて決めています。
Q7 型番経理が開発している、一つのチームの生産規模はどれぐらいですか?
A7 機種によって大きい違いがあります。最も売れ行きの良い物は20万台ぐらいですが、1万、2万台しか売れない物もあります。売れ行きのいい型番は型番経理が受け取る利益のパーセント数を低くしたり、あまりうれない型番の型番経理に対しては利益のパーセント数を高くしたりして、バランスを取っています。会社の戦略で開発する型番については、公平に入札で競争を行います。入札のときは、主に企画書を参考にします。
Q8 従業員の名前を張り出したりして評価をするとのことでしたが、管理者の評価はどうしていますか、誰が評価するのですか。従業員の離職率はどれぐらいですか。それに型番経理制度を行うのでしたら、リスクのある型番には人気が集まらないと思いますが、そのリスク対策はありますか。
A8 管理者の評価は、ハイアールの場合、毎月26日に翌月の目標を立てさせて上司に提出させます。目標はできるだけ定量的に提出させます。販売部門に対しては売り上げと利益を評価に反映させますが、研究開発部門に対しては目標の完成度、達成率をみて評価します。定性的な評価もあります。メインの業務に60%、それ以外の業務に40%の比重をかけます。それで、点数に表し、順位をつけて公開します。
離職率については各部門によって違います。全体的には分かりかねますが、私の場合、2000年に一緒に研究開発センター入ったのは11人でしたが、今年まだ勤めている人は5人ですから、離職率は50%以上ということになります。その中には自分から離職した人もいれば、会社から退職させられた人もいます。離職率が高いのは1年目、3年目、7年目です。
リスク対策については戦略的に新しい分野、新しい商品を開発する場合には金型投資が莫大になりますので、給料のパーセント数を高く設定したり、場合によっては失敗しても責任を追及しないなどの措置をとります。もちろん、開発者は上司の手厚い信頼を得た人で熱意がある人に限ります。すでに売れている商品の一部を変更するだけなら金型投資はほとんど必要ないので、給料の比率を下げるなどの調整を行っています。
Q9 ハイアールは最初、ドイツの技術ライセンスを使ったといっていますが、どうやってドイツでその地位を確保したのでしょうか。アメリカ、ヨーロッパでは色々なヒット商品を出しましたが、日本ではどんな商品を出しましたか。従業員の平均年齢が28歳と書いてありますが、一番年上は何歳で、どんなポストについているのでしょうか。
A9 一般的に企業が海外で事業をする目的は外貨の獲得ですが、ハイアールの場合はブランドを作るために進出しました。しかし、ドイツから得た技術で生産し、ドイツで販売するのは非常に困難でした。量販店でプレゼンしても注目を浴びることはありませんでした。そこで成果賃金主義のハイアールの企業文化に基づき、売れなかったら給料は出さないことにして、社員達に様々なアイデアを出させ、試しました。そして、ほかのドイツのブランド製品との性能、品質との比較を、ブランド名を隠して行ってもらった結果、当社の製品はヨーロッパで2位の評価を受けました。
アメリカ人と日本人の性格はずいぶん違います。そのため、アメリカでヒットした商品だからといって、必ずしも日本人向けに成功するとは限りません。アメリカ人は細かいことは重視しませんが、日本人は品質に非常にうるさいのです。そこで主婦層は狙わず、学生をターゲットにしました。すき間商品を狙ったのです。アメリカ向けとは別に日本の若者向けに開発、生産したワンドア冷蔵庫が非常にいい売れ行きを示しています。洗濯機に関しては、日本人がデザインした5kgの完全乾燥機付きが人気商品になっています。今年からは、若者向けだけじゃなく、大型商品も開発生産する予定です。
一番の年長者は64歳で、今の社長の楊綿綿(女性)です。平均年齢28歳とはちょっと離れていますが、考え方、やる気などは、私よりも若いと思います。
Q10 新商品を開発した時は、どんな基準に基づき価格設定を行うのですか。粗利益の基準はありますか。粗利がいくら以上なら投資しますか。
A10 新商品を企画する時は、正式に商品を作る前にまずユーザー・ニーズを深掘りし、類似商品の価格とコストを参考にし、粗利で儲けが出なければ、投資は行いません。マーケットリサーチをして、どのくらいの価格なら売れるかをつかみ、それに製造、運送などのコスト、利益などをトータルで考えて、価格定をします。
粗利の基準は具体的には分かりませんが、商品によって違ってきます。例えば大型冷蔵庫とかは運送コストもずいぶんかかりますので、粗利益は携帯など小型商品より高くなければなりません。
Q11 R&Dは中国国内ではなく、ほかの国にアウト・ソーシングすることはありますか。
A11 あります。アメリカ、ヨーロッパで既に13億円ぐらいかけて、アウトソーシングしています。デザインセンターを置いていて、ユーザー・ニーズなどを調査しています。これからは積極的に技術開発もするつもりです。
Q12 開発コストは利益の何%ぐらいですか。
A12 日本では5%でと聞いていますが、中国は4%になります。これからは先行開発の場合、開発コストの利益率比率は上がると思います。
Q13 中国国内でのブランド戦略を教えてください。
A13 市場シェアは30%を超えると、いろいろ問題が出てきます。今のハイアールの国内でのシェアは27%近くで国内No.1だが、ある商品は既に30%に達しています。それに中国の人は同じ価格でしたら外国のものを好むという性格があります。ですから、中国国内ではシェアをさらに伸ばすよりも、ブランドを固めることが戦略だといえます。
Q14 海外に進出する時、ハイアールの文化をどのようにして現地の文化と融和させるのでしょうか。
A14 ハイアールの労務管理の厳しさは特別です。従業員の優劣を直接壁に書いて公表するようなやり方は、海外現地では受け入れられません。その場合、従業員を発奮させるという目的は同じですが、やり方は現地の文化に基づき受け入れ可能なやり方に変えて行います。

W)杉本先生による総結
今日は大変面白い話、有難うございました。
ハイアールは20年間で2万倍の売り上げ高に成長した、ものすごい企業だということが分かったと思います。そうしたことが可能であった背景として、中国が計画経済から市場経済へ移行するプロセスにあったということを認識しておかねばなりません。
計画経済の時代において、企業は政府の命令を実行するだけの機関でしかなく、決められた品質の、決められた製品を、決められた量だけ生産する工場でしかありませんでした。製品は政府が全て買い上げてくれるのですから、企業に市場ニーズを察知する機能は育ちようがなかったのです。生産された製品は、政府の計画に従い必要とされる機関や企業に配給されていたのです。
そのような計画経済から市場経済への移行の過程において、ハイアールはその経済体制転換の本質をいち早く見抜き、それまでの国内企業のやり方を市場経済に合致するやり方に転換していく上で、最も成功した企業なのだと思いました。それまでの、物不足時代の配給制度に基づく旧い品質意識を破壊することこそ、市場経済に合致する企業制度の構築の第一歩だったと思います。それを創業者が洞察し、直ちに行動に移す熱意、ブランドを確立する精神は非常に素晴らしいと思います。
ハイアールは従業員が企業内での毎日朝会を行い、自己批判を行うことでも有名ですが、そうした厳しい労働者管理が、孔子の故郷である山東省の文化に合致しているということを聞き、大変興味を覚えました。自己批判が決して押し付けられたものではなく、地元の郷土の文化に支えられ、効果を発揮していることを知りました。
さらに、SBUや型番経理、MMCなどの制度は、従業員一人ひとりに経営を担う一員としての意識を植え付け、従業員の意識を変革し、市場の動向に敏感な感覚を養う上で有効であり、ハイアールが成功した鍵になっていると思いました。
以上

司会:李栄花   書記:金(主)、安(副)、趙(副)
担当教官:杉本 孝

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