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  2005年度 ワークショップ講演録

 


■第4回ワークショップ(2005年10月28日)

ゲストスピーカー: 日鉄海運株式会社 代表取締役社長 大隅 多一郎 氏

タイトル : 「最近の海運市況―中国要因と資源要因
                 鉄鋼業とその原料輸送の立場から」

(講演レジメはこちら[PDF 1.9MB])

T) 杉本教授による講師紹介

昭和41年東京大学法学部公法学科卒業。
同年八幡製鉄入社。(昭和49年入社の杉本教授の先輩にあたる)
八幡製鐵所総務課長、新日鐵本社鉱石第二室長、同経営企画部部長代理、八幡製鉄所総務部長を経てブラジルに新日鐵南米事務所長として4年勤務。その後、日鉄海運に移る。
スポーツマンで東大在学中はボート部で活躍した。
日鉄海運は新日鐵の完全子会社で荷物の70%以上は新日鐵の原料、しかし新日鐵以外のバラ積み貨物も運んでいる。
海運市況は経済の動きを敏感に反映するのでその点も学んで欲しい。

U) 講師自己紹介

日本の高度成長時にビジネスマン生活を経験してきた。
資源、物不足の売り手が強い'60年代後半から仕事を開始した。
計8年、ブラジルに勤務し、ブラジルを通して日本を見た経験もある。
また、アメリカとのビジネスでM&Aの仕事に5年間従事。
鉄鋼原料部門を中心に働いてきて、マーケット認識に裏付けられた資源政策の重要性及び輸送が重要なことを痛感してきたので今日はこのことをお話したい。

V)講演内容 (外航海運について)

1.外航海運の位置づけ(概要)

 (1) 大量輸送時代に最もコストの安い輸送手段
日本はエネルギー・資源を始めとする産業原料の海外依存度が高い。海運は日本と海外との貿易物資の安定輸送に大きな役割を果たしている。
日本産業の原料輸入依存度は鉄鉱石、羊毛、綿花は100%、原油99.8%、天然ガス96%、石炭、他、食料を含めて海外依存度がきわめて高い。
 (2) 貿易に占める海上輸送の割合
2003年のデータではトン数ベースで輸出の99.2%、輸入の99.8%が海上輸送。金額ベースでは輸出の66.3%、輸入の70.5%を占めている。その意味では日本海運界は日本経済に対して大変重要な仕事をしていると自負している。
 (3) 世界の海上輸送量(重量比で見た貨物別割合)
石油が1/3、鉱石1/4、その他雑貨、コンテナ、自動車など。

2.外航海運の特徴

 (1) 国際市場での完全自由競争
国際慣行として「海運自由の原則」
  〇 事業参入、撤退の自由
  〇 貨物・船舶の選択は国籍を問わず荷主の自由
 * この点、二国間協定の国際航空業とは決定的に異なる。
 (2) 徹底した運賃競争
国際自由市場では運賃率で競争する以外に差別要因はない。
 (3) 参入障壁が低い = 新規参入が容易
  〇 電話ひとつで商売できる。
  〇 運航・船舶管理・配乗・その他はアウトソーシングできる。
 (4) 事業は柔軟に展開できる。

3.海上運賃の決定方法

 (1) 海上運送が売るものは積地と揚地間の海上の地理的移動サービス(無形財)である。
 (2) 海上運賃
サービスの対価である運賃が買い手である荷主から売り手である船主に支払われる。(一般有形財が取引される場合と同じ)
バランスが取れている場合は安定した運賃水準で推移するが、バランスが崩れた場合は
積荷需要 < 船腹供給 ⇒ 運賃下落
積荷需要 > 船腹供給 ⇒ 運賃上昇
となる。

4.船舶コスト構造

船舶経費(固定費)と運航費用(変動費)に分かれる。
船舶経費  − 資本費(建造及び買船に要する費用及び発生する金利)
− 船費(船員費、修繕費、潤滑油費、保険料、船用品費、船舶管理費他)
運航費用   港費、燃料費、荷役費他
 (1) 資本費の捉え方
@ 税法による償却(一般企業の会計と同じ)
A 借入資金償却
B 投下資本回収
 (2) 船員費の捉え方
バラ積外航船舶は、現状22名乗り組みであるが、その船員費コストは
@ 日本人のみの場合、260万ドル/年
A 日本人4、フィリピン人18の場合、110万ドル/年
B フィリピン人のみの場合、68万ドル/年
船員費コスト競争力喪失が原因で日本人船員は急速に減っている。
(1985年プラザ合意を受けた円高進行で日本人船員コストは競争力を失い、この結果日本人船員削減の動きが加速し、外国人船員の配乗が増えた。)
 (3) バルクキャリアのコスト計算
日鉄海運の標準船型である17万トンバルクキャリア(バラ積み船)を2010年に建造する場合を例に取り採算性の説明があった。

5.海運会社が背負うリスク

 (1) 燃料油コスト
現在、燃料油の高騰に頭を痛めている。日鉄海運は、新日鐵の専用船に関しては燃料油コスト増を荷主である新日鐵に荷主負担として求める契約を締結しているが、内航は荷主に対して燃料油価格高騰に伴う増加コストを転嫁できずに赤字となっている。
 (2) 為替リスク
また、外航海運は米ドルで運賃が決まるので、米ドル以外のLocal Currency(円やウォン)によって経営を行うことになる海運会社には為替リスクが生じる。
 (3) 海運マーケット変動リスク
最近の変化として2003年からFreight Marketが一気に上がったことが挙げられる。
その理由として中国の高度経済成長がある。
中国が世界経済の成長に大きな位置を占めるようになった。
また、粗鋼については今後インドの動きが重要となるであろう。

6.外航船舶乗り組日本人船員の推移

   1982年には3万人を超えていた日本人船員は2003年には3,300人とほぼ1/10となった。

7.不定期船の採算性

   船主損益 = 運賃収入―(運航経費+船舶コスト)
  運賃収入は海運市況によって自由競争で決まるので時々の海運市況の好不況によって変動する。採算性を向上させるには(1)収益の増加(2)費用の減少に尽きる。
船主自身の自由度は低く、船主ができる努力はコスト引き下げが中心。

8.専用船とその経済的意義

 (1) 専用船
荷主が長期に安定的、経済的に自らの貨物を輸送するための船舶
 (2) 意義
荷主にとっては変動する運賃市場に左右されず、輸送コストの安定化が図れ、予定されたスケジュールで運航されることを通して原材料在庫を適正化できるメリットも存在する。
また、船主にとっても安定的な利益の確保が可能となる。

9.海運業のリスク対策

 (1) 船舶保険
万一の損害発生に備えて財産を守り、保障を得るための船舶保険制度がある。
船舶投資は巨額であり(20万トンクラスのバラ積み船の船価は足下66百万円)、それだけに投資には大きなリスクが伴う。このリスクをminimizeする方法に一つとして保険制度が発展してきた。というより海上輸送のリスクヘッジの方法論研究から保険制度が発展してきたと言っても良い。
@ 物的損害(沈没、座礁、火災、衝突などの海難事故)
A 物的損害を伴なう間接損害(修繕に伴なう滞船など)
B 物的損害を伴なわない間接損害(岸壁施設の事故、港湾封鎖による滞船)
C 他に与えた損害の賠償責任(衝突、海上汚濁など)
 (2) プール(Pool)
1990年代後半からプール運搬が活発化した。
(「闇雲な競争」から「秩序ある協調」へ)
市況の安定化、配船の効率化など荷主・船主双方にメリットが多い。
反面、組織としては「上がりマーケット」には強いが、「下がりマーケット」に弱いデメリットがある。
 (3) 燃料油価格の変動
長期契約には燃料油価格調整条項を織り込むことに努力してきた。

10.今回のブームで学んだこと

   資源という存在が有限なものを交易する体験を通して、世界中できちんとした資源政策が検討されそれに基づいた資源貿易が秩序だって行われることが大事であることを、ここ10年の中国の大発展でいろいろと考えさせられた。
言い換えれば、世界の経済フレームは、売り手市場、買い手市場のいずれかが永遠に続くのではなく、その時々の市場バランスを通して変化している。
この中で日本を含む世界経済の安定的成長を考えるには、35年前から日本が真剣に取り組んできたような資源政策を世界中の資源関係者が課題として認識することが必要であろう。
今回の中国経済の急拡大に起因する資源ブーム、それに引き続く海運ブームを経験して、いい勉強をしたと思っている。

X) 質疑応答

Q1. プール制はカルテルとは違うのか?
A1. カルテルとして世界で公認されているのはコンテナで3つくらい、それ以外には私的に民間会社の協力による助け合いの形としているのがプールで、タンカーで2つくらい、バルクキャリアで2つくらい存在する。
船会社はここ35年間程荷主との関係では所謂傭船者マーケットのもと大変な苦労をしてきたので、その対策としてお互い船を出し合って共同運航すれば良いのではと考えた。

Q2. それは国際的か?組織化にはリーダーがいるのか?
A2. 船社経営の危機に強い意識の強いところだけリーダーとして出てくる。
日本の大手、日本郵船、商船三井、川崎汽船は単体でも大きい。中国のCOSCO(国営)も大きいがプールには入っていない(定期船のカルテルは別として)。
プール制は1998年〜03年欧州でしばらく続いた。
欧州では各国が地理的にも近距離にある為か、協調の話がしやすいのではないかと推察している。

Q3. 中国の流通について以前のワークショップで中国から船で輸出するときは満杯で、帰りはカラ(空船)が多いと聞いた。これではコストはかかるし、効率も悪い。 解決する方法は?
A3. 船は荷物を運んでお金をいくらもらえるかの商売。
往復とも満船での運航ができるのが理想であるがそれが出来ているところはあまりない。片道だけ荷物があるというのがほとんどである。
コンテナを例に取ると中国、日本、韓国からアメリカへ運んだ帰りのアメリカからのコンテナは荷物満載と言うことは難しい。東アジアからアメリカへ3つのコンテナを運ぶと、帰りに荷がつくのは1つ程度と言われている。
往復の荷物を運ぶ例としてはクロストレード(大西洋/太平洋を往復する航路)がある。例えばオーストラリアから欧州へ鉄鉱石乃至は石炭を運び、欧州から南米ブラジル迄は空船、ブラジルから日本または韓国/中国に鉄鉱石を運ぶ場合の空船率は30%に減少する。
太平洋内、大西洋内の航路では、運賃は基本的に片道だけ荷物が存在する前提で計算されている。

Q4. 3つのコンテナの例で効率的に運航するため3回分をまとめて出発させることはできないのか?
A4. できることはできるが、それでは配送タイミングに重きを置くような顧客のニーズに応えられない。
これに加えて、船を遊ばせるコストは高いものにつくが、特にコンテナ船は高速で走る様に建造されておりコストも高くなるので船を港に置いておくだけで莫大な費用がかかる。

Q5. 船のオペレーションに関わるコスト港費はどのように決まるのか?
A5. シート8(バルクキャリアコスト試算)を見て欲しい。
これは6,000万ドルの船価の船を作った場合の計算。4,000万ドルの船ならもっと安くなる。港に払うお金はシート7(船舶コストの構造)を見て下さい。
どんな船を作るかによって決まる。

Q6. 貨物と運賃の関係はどのように変化しているのか?
A6. 鉄鉱石の例でお話しする。ここ2年の経験で言えば、昨年までは運賃の方が高かった。大凡10j/tだったブラジル−日本のフレートが45j/tまで上がっていた。ところが今年の初めに、鉄鉱石の価格が71.5%上がり、25jが40jになった。石炭に至っては125%値上がりし、50jが120jに跳ね上がった。他方運賃はやや冷やされブラジル/日本の場合でUS$30/t程度以下になっている。'75年から'02年までは、大凡貨物(鉄鋼原料に限って言えば)の値段が高かった。

Q7. 中国ブームはいつまで続くと思うか?
A7. 私の方こそ教えて欲しいと思っているくらい難しい質問と思う。世界中で調べているが確たる見通しはわからない。通説では2008年のオリンピック、2010年の万博までは続くだろうと言われている。中国の政策遂行能力は高いのでで、そうなるように様々な手を打つだろう。
生産の伸びは余りにも急速な伸びで理解しがたいが、事実として伸びている。
海運マーケットは2003年12月から2回ピ−クをつけた。中国のマクロ経済政策とかなり高い相関が見られる。
来年はこれまでのように爆発的な状態にはならないのではというのが多数意見であるが、正直なところおっかなビックリだ。
今のところ中国経済がダメになるような兆候は見られず、鉄鋼マーケットは少し下がっているが、崩壊する理由が見当たらない。

Q8. P.26の図(船価推移)を見ると2004年、2005年は新造船価より中古船価が高くなっている。何故か?
A8. 現在の状況では造船所の船台がすべて埋まっており、新しい船を建造するためには 2010年まで待たねばならない。中古船であれば、足下の海運マーケット好調を享受して、購入した翌日から確実に利益を上げる事が出来るが、新造船の場合、その船が引き渡されるまで4年から5年間待たなくてはならず、その間に海運マーケットもどのように変化するか保証の限りではなく、利益を上げられるという観点からは不確実性が大きい。この事情を反映すると、中古船の市場価格が新造船の価格を上回る場合が生ずる。

Q9. 港で船を泊めなければならない場合はあるのか?その場合の解決方向は?
A9. 港の施設で事故を起こしたり、油を流したりした場合はありうる。始末がつくまで、港に繋留される。代わりの船を提供するようなこともあるが、最終的には経済問題としてお金で解決するしかない。

Q10. その場合、保険は利くのか?
A10. 故意で起こした事故の場合は、難しいケースとなるが、通常の事故(過失の場合)の場合は保険でカバーされる。

Q11. デスデマとは?
A11. 契約書に「本船の責任に帰すことが出来ない理由で予定荷役時間内に荷役作業を終えることが出来なかった場合、本船を契約規定より余分に泊めた時間に比例してコスト補償の意味を持つデマ(延滞料)を荷役側(積荷、揚荷、各々)から本船に対して支払う。逆に予定時間内で荷役作業が終了した場合は、本船が速く出港できるメリットを荷役する側に返すと言う意味でデス(早出料)を支払う。

Q12. 上海で1ヵ月も荷役を待たされるというのは本当か?
A12. そういう状況が生じたことがある。中国ではこの2年間くらいで港を急速に整備してずいぶん改善された。コンテナターミナルもどんどんできている。以前は17.8万tの船が入れるのは北崙港しかなかったが、今は8〜9箇所はある。上海近くの大洋山には世界最大のコンテナターミナルを造っている。
中国は物流に対してものすごい執念を持っている様に見える。国をあげてインフラ整備をやり遂げる力はすばらしい。
その点、以前勤務したブラジルはやや対照的である。30年前にブラジルにも所謂ブラジルブームが存在したが彼らは日本に対し何故資本進出をもっと行ってくれないかと不満げだった。しかし、実際に行ってみても、インフラの整備等が必ずしも万全ではなく、外資が自発的にブラジルに進出するに見合う条件が十分整備されていたという体制にはなっていなかったように感じる。それに対して中国は、外資に対して来てくれと言う前に、自らどんどんインフラを建設しており、外資としても中国への進出がやりやすいようであるとの印象を受けている。今の中国はインフラがどんどん整ってきており、すごいと思う。

Q13. 船会社の世界のビッグ3は?
A13. 船種によって違う。
総合船社として日本郵船、商船三井、川崎汽船は上位を占める。
コンテナ会社としてはマースク・ネドロイドが世界の25%シェアを有し、アジアでは台湾のエバーグリーンが大きい。

Q14. 競争戦略としてどんな差別化を図っているのか?
A14. 海運は運賃の競争力次第である。競争力ある運賃を提供することに尽きる。
シート7(船舶コストの構造)を見て欲しい。
先ず第一に注目して欲しいことは、最も大きなコスト要素である資本費で決定的な差がつく事である。
大手船会社はそのほかの船社に比べ、金融機関から有利な金利条件で融資が受けられる。大手船社と中小の船社では1.5〜2.0%の金利差がつく事がある。従って体力があれば船価の一番安い時に船舶調達を行うことが鉄則で、船価が安い時に建造すればその船の運賃率は競争力があり、不況にも耐えられる。フレート(運賃)の競争力を分析していくと、最終的にはコスト競争力が決めてとなる注のタイミングとファイナンス条件が重要。
また、日鉄海運の場合、新日鐵が76%の株主であり、新日鐵はその使用する原料の安定調達という観点からコスト保証を行う専用船隊を整備し、専用船隊に対しては油代が上がっても荷主として値上がり分を補償する仕組みを実施している。石油(燃料油)が1j上がれば、ブラジル/日本の航路に於けるケープサイズのバルカーで、運賃率は理論上約1.7セント上昇することとなり、これを補償対象としている。しかし、そのほかの荷主の場合、特に一年以下の短期輸送契約の場合等には、足下の燃料油マーケットを前提として輸送契約を締結することも多く、その場合荷主、船主双方に燃料油価格の変動に伴うリスクが残ることとなる。

Q15. 新日鐵が傘下に日鉄海運を持つのはどういった意味があるか?運賃だけ考えればメリットは無いのではないか。他にメリットがある筈だが?
A15. 製鉄事業の安定を図るという目的と、海運マーケットにおける船腹の需給バランスの観点からこの問いに対する回答を見るのが良いと思う。
どこからでも船が引ける(傭船)ようなBuyer's(Charterer's)Marketの時は、我々の様に専用船を運航する船社はその提供する専用船の運賃が高いと言われ、なかなか反論しにくい辛い時代を経験してきた。しかしこの2年間で、例えばブラジル/日本のスポットマーケットは45jにも跳ね上がったが、我々専用船は10j前後の運賃率で運んでおり、専用船の運賃率競争力を証明できている。
しかし、最も重要なことは鉄鋼業にとって、必要な船が欲しい時に手当てできるという安心感だと思う。専用船の運賃はその都度のスポットマーケットの運賃率と比べれば少し高い場合があるのかも知れない。
安定的に船を求める場合は長期契約の専用船が良いし、スポット的な用船はその反対である。どちらがいいかは一概に答がない。フランスは伝統的に長期契約の話よりも一年以内の短期契約乃至はスポット契約をより好む傾向が見られる。中国もこれまでは専用船を持っていなかった。ここ数年の動きを見れば中国も調達の安心感を優先するとすれば、専用船を持つ方向に進むだろう。フレートがどんなに高くなっても良いという覚悟があれば、スポット傭船でも構わないだろうが、物理的に船が引けないことがあるかも知れないと思えば、どうしても安心が欲しくなる。資源に恵まれない日本としては、もっと資源調達に関わる安全保障の考え方を重視する必要があると思う。この延長線の考え方として、どんなに高い運賃率を提示しても船がない場合はどうするのかを考えると、私は政策として専用船は必要だと思う。

(杉本教授コメント)
鉄鋼業は連続操業が宿命づけられており、そのためには安定した鉄鉱石、石炭の確保が不可欠である。
フレートの高い、安いだけでは決められない。

Q16. 運送中の荷物の損傷、お客のクレームへの対応は?
A16. (鉄の輸送は)長い取引であり、誠実に対応する。
保険をかけているので保険会社の査定に委ねることが多い。

Q17. 中国の需要、需給バランスは?
A17. 中国の需要は理解が難しい。
過熱状況には至らないという人もいるが、このところの2年で1億トン粗鋼生産が増えており、将来のことはNo one knows.欧州の海運企業は中国に駐在員を置いて、中国のマーケット状況を全部レポートさせている。中国のことを出来るだけ正確に掴んでいないと世界の経済を語れない時代になっている。
これまでに私が掴んできた情報によれば、中国経済の来年様子は'05年よりややmoderateな伸びになるのではないかと想定する事が妥当なように思う。

Q18. 運賃コスト競争は大事だが、納期も重要と思う。台風や津波のことを考えて、納期は余裕を持って決めるのか?
A18. 船は大体計算通りに運航できる。20日ぐらいの航海でもアロウアンスは0.5日程度しか見ていない。冬場の北大西洋は荒れるが、その他の場合はほとんど計算通り到着する。
鉄鋼原料を運ぶバラ積み船は、Buyerが45日間くらいの在庫を持っているので、少々の遅れはこの中で吸収して頂けるが、コンテナ船は輸送期間の短縮と荷渡しタイミングの正確なスケジュールを売り物にしているので、少しの遅れでも問題となる可能性が大で、大変である。

Q19. 船腹需給ギャップ率はどの程度でバランスするのか?
A19. シートの21ページ(ドライバルカー需給ギャップ率)を見て欲しい。
ギャップ率6%〜7%ならComfortable Buyer's Marketでほぼ安定する。また、過去どんな時でも船がなくて運ぶに運べなかったようなことはない。しかし、ギャップ率が0になったら、凄まじいことになるかも知れない。

Q20. 日本人船員とフィリピン人船員についてお聞きしたい。
A20. フィリピン人船員は世界で23万人と言われている。日本の船だけでも23,000人〜25,000人が乗船している。
フィリピン人船員が多いのは同国国内に海上職以上に魅力的な仕事や職場が相対的に少ないからではないか?プランテーションとかいくつかの産業以外に大きな労働人口を吸収する産業がないのではないか。将来フィリピン人船員と国際船員マーケットで競争するのは中国人船員であろう。

Q21. トレーニングは?コミュニケーションは?
A21. オフィサー(ホワイトカラー)とレーティング(ブルーカラー)に分けられるが、オフィサーは基本的にMaritime University(商船大学)卒業者である。
船内では英語が共通語であり、英語で書かれたマニュアルもある。フィリピン人の英語は、それが母国語であることもあり日本人のオフィサーより上だという話も耳にする。

Q22. 海運は自由競争で参入障壁が低いとの説明だったが、多額の資金が必要であり、むしろ(障壁が)高いのでは?
A22. 船は一隻60億円もするので、確かに価格は高い。しかししっかりした建造計画と輸送契約があれば、銀行が80%ぐらいまで貸してくれる。また、リース業の利用でもやれる。これらの条件を満足し、頭金さえあれば海運業を始めることは十分考え得る。

Q23. ソーラー・パワーは使っているのか?
A23. 船内で使用する電力量は非常に大きく、ソーラー・パワーを持ってそれを賄える規模ではない事もあり、未だ殆ど使用されていない。
船は自動車のように精巧な機械ではない。エンジンの回転数も1分間に60回転程度だ。燃料はC重油という言葉は悪いが産業廃棄物のような低質油を使っているので、船の排気ガスは環境問題となっている。東京都の石原知事は東京湾に入る船はC重油をやめ、A又はB重油を使えと要請したことがある。業界としては大変な負担増になるので、とても受け入れられない。しかし、この排ガスの問題も近々一段と厳しい対応策を迫られるようになると見ている。船内で発生する汚染物質は捨てられなくなるので、船に焼却炉を積み焼却処置を行っている。
廃棄物に関しては、船上で事前処理して無害化した廃棄物に限り海中に投棄している。

Q24. 船の寿命は?
A24. バルクキャリアの場合、日本の法定償却は15年。しかし、実際には25年くらい使う。鉱石専用船はダブルハル(二重船殻構造)だから30年はもつ。日本人は、安全確保の観点からそれを10年〜15年使用した後で売るが、欧州の船主はそれを買ったりして、30年くらい使う。

Y) 杉本教授によるまとめ

資料の3頁の「外航海運の概要 その位置づけ」にあるように、日本の貿易量の99.7%は海上輸送に依存しており、Air Cargoはわずか0.3%に過ぎない。ところがその0.3%のAir Cargoが金額では31.8%を占めている。このことは航空輸送と比べ、海上輸送がいかに安いかを示している。
資源をほぼ100%海外に依存している日本の鉄鋼業がなぜ競争力を持てるのか?ここに一つの解がある。日本の技術でできた鉄鋼製品は品質が違う。高級品種では日本以外の国で生産された鋼材に比べ、品質にまだまだ差があるので、日本製の鋼材のコストが少し嵩んでも高い価格を享受できる。
しかし高い品質を必要としない汎用品では、価格が安い方が競争力を持つ。この領域でも日本が競争力を確保するためには、中国に負けないくらいの低コストを実現せねばならない。日本の鉄鋼業が国際市場で優位を確保できているのは、大量輸送の海運に負うところが大きい。
鉄は重く、かさばり、単価が安いのでよほどの緊急性が無い限り、鋼材をAir Cargoで運ぶのは、経済的に不合理である。従って鉄やその原料は通常船でしか運べない。しかし同じ船でも様々なサイズがあり(Cape Size, Panamax, Handy Maxなど船のサイズの説明があった)、大型船と小型船とでは運賃が十倍以上違うこともある。
鉄を作るには鉄鉱石と石炭の両方が必要である。ところが鉄と石炭の両方を産出するような地域はまれであり、製鉄所を鉄の産出する所に立地すれば、石炭を陸上・海上輸送で運んでこなければならない。逆に石炭の出るところに立地すれば、鉄鉱石を運んで来なければならない。いずれにしても、かなりの長距離の陸上・海上輸送が必要となる。
ところが陸上輸送は海上輸送に比べて格段に高く、大量輸送が難しい。25万dの鉱石専用船一隻に積める鉄鉱石を鉄道で輸送するとすれば、90d積みの貨車が2780輌も必要になる。10dトラックで運ぶとすれば、25000台が必要になる。不可能ではないが、そのための時間とコストは膨大となる。つまり、鉄鋼業では陸上輸送を最小限に抑えることが競争力の源泉となるのである。
大昔、海は人々を隔てる存在だった。しかし、航海技術の発達により、海は徐々に人々を結びつける存在に変わって行った。同じ海が技術の発達により、その役割や機能を変化させたのである。現在では大型船の建造と大規模港湾の建設により、海上輸送は陸上輸送の数分の1のコストで大量の物資輸送を可能にしている。その結果、資源の無い日本は世界中で最も良質な鉄鉱石と石炭を、最も安い海上輸送で、自由に調達できるようになった。資源が無いという不利な条件が、大型船の建造と大規模港湾の建設という新技術の開発により、競争力の源泉に転化したのである。それを実現したのが、日本の海運業である。


(講演レジメはこちら[PDF 1.9MB])


司 会 : 中村 敬一  
記録担当:源川 和正(主)
于 琳秀 (副)
程 偉  (副)
以上

講義後の大隅氏を囲んで



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